パイラン ラブ・レター / ありがとう、とあの人は言った

パイラン (2001 韓国)
파이란 / FAILAN
監督:ソン・ヘソン

 

あらすじ:妻が死んだ。

原作は浅田次郎の短編小説『ラブ・レター』。邦画では中井貴一主演で1998年に公開されていますが未見です。原作も読んでいません。

40過ぎて独りフラフラ暮らすチンピラのカンジェ(チェ・ミンシク)は、ある日突然「奥さんが亡くなった」と知らされ驚く。カンジェはかつて小金欲しさに身寄りのない中国人女性(セシリア・チャン)と偽装結婚したのだがすっかり忘れていたのだ。

彼女の名は白蘭(パイラン)。一度も会ったことのない妻の遺体を引き取りに彼はパイランが暮らしていた田舎町を訪れる。
部屋に夫の小さな写真を飾り、病と闘いながら健気に働き言葉を覚えていったパイランの最後の手紙には、カンジェへの純粋で素直な気持ちが切々と綴られていた。

 

第22回青龍映画賞で監督賞と主演男優賞(チェ・ミンシク)、第39回大鐘賞映画祭で監督賞と審査委員特別賞を受賞するもチャン・ドンゴンの『チング』と公開が被ったため思うほど興行成績が伸びず、悲運の名作と言われているとか。手斧は持ってません(あたりまえ)。

 

しょっぱなからセッキセッキの連発で大変です。まあそれはいいんだけどセッキパートがやや長いなという感じがしますね。カンジェの人となりや組の中での位置付けはよくわかるんだけど、もう少し端折ってもいいのかなと。面白いけどね。

カンジェにとって人の死というのは、殺らねば殺られる極道の世界に限られていたと思うんです。負ければ死ぬ、弱ければ死ぬ。誰かの死を悼むとか、どれだけ辛かったか、無念だったかなんて考えたこともなかったでしょう。
そんなカンジェが初めて人の顔になる、というかすごくいい表情になる瞬間があるんですよ。遺体を引き取りに行く汽車の中でパイランの写真を眺めるシーンなんだけど、この顔が好きすぎるので画像貼ります。

 

 

会ったことも話したこともない相手を好きになるのかという点に関しては、わたしはあると思います。孤独で頼る人もいなくて、ましてや言葉のわからない異国の地で必死に生きていこうとすれば心の拠り所が必要だから。写真1枚しかない戸籍上の夫でも、毎日眺めて思い続けてたらそりゃ愛しくもなるよ。ねえー。
弟分のギョンス(コン・ヒョンジン)がちょいちょいいい事を言うんだけど、「言いたいことがたくさんあったんだな... 読まないのか?」のあとの手紙のシーンはもう胸が痛かったですね。パイランのあまりにも純粋でいたいけな愛に打ちのめされ、詫びの気持ちと己の生き方を恥じる気持ちで頭の中ぐちゃぐちゃになって何をどうしていいかわからない。初めて人を思って泣いている自分自身にも混乱したことでしょう。

 

ラストについて、カンジェは遅かれ早かれああなることを分かっていたと思いますね。そりゃそうでしょう。世の中そんなに甘くないんやぞ、とシビアな着地点に容赦なく降り落としてくれるのが韓流のえらいところです。
ギョンスはあのビデオを見せるつもりで忘れていたのか、どうせそのうち勝手に見るだろうと置いていたのかわからないけれど、あの数分間はカンジェにとって一番幸せな時間だったとわたしは思いたい。いい意味で引きずる映画でした。

 


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