ビバリウム / この社会は残酷だ

ビバリウム (2019  アメリカ/ベルギー/アイルランド/デンマーク)
Vivarium
監督:ロルカン・フィネガン


あらすじ:家から出られない。

マイホームを探すトム(ジェシー・アイゼンバーグ)とジェマ(イモージェン・プーツ)は、ある不動産屋から全く同じ家が並ぶ住宅地 Yonder(ヨンダー)を紹介され内見に訪れる。
帰ろうとした二人は車に乗るがいくら走っても景色は一向に変わらず、住宅地から抜け出せなくなっていた。おまけに誰の子かわからない赤ん坊を育てることになり、二人の精神は次第に崩壊していく。

 

ビバリウムというのは「生き物の住む環境を人工的に再現した空間」と定義されていて、それを見る人は癒され、ビバリウムで飼育される生体にはストレスのない環境を提供できる云々… とのことなんだけど、このビバリウムはまあストレスだらけ、というか不条理きわまりない地獄のマイホームであります。

冒頭のカッコウの托卵に始まって、画一的な家、段ボールで届く赤ん坊や食料、味のない食べ物、異様に早く成長する子供の奇怪な言動、雲の形さえ変わらないまるで絵の中にいるような周囲の景色など、挙げればきりがないほど変なことだらけなんだけど、結局この「変だ」とか「不条理だ」というのはまさに現代社会に生きる我々が常日頃思っていることなんですよね。世の中にぶーぶー文句を言いながらも食べていくために必死で働き、念願のマイホームを持てたと思ったらローンに追われ、泣くばかりで何言ってるかわからん異星人みたいな子供のお世話をし、苦労して育て上げたと思ったらさっさと出ていかれ、やっと解放されたと思った先には棺桶が… みたいなさ。

 

もちろんそうじゃない人だっているだろうし、人生経験の少ない若い人たちにはピンとこなくて刺さらないナニコレと思うかもしれない(けっこう酷評レビュー多いですよね、この映画)。みんながみんなそうじゃないでしょ、と思う人もいるでしょう。そう、まさにそれですよ奥さん。みんなの感想が同じだったら恐ろしいんですよ。
誰かがいいと言ったらいいと感じ、皆と同じことをし同じ物を持って安心し、ブームが去るとまた新しいブームに乗っかる。自分の人生のはずなのに、その短い人生を一過性のいろんなものに振り回されて生きているわけです。良くも悪くも。

 

いろんなメタファーの中でもわたしが一番良かったなあと思うのは「9」です。二人にあてがわれた家の番号で、ほかの家には番号がないんですよ。
で、数字についてだけ言うと、どんな数字でも9を掛けるとその答えの各位の和は9になるというね、面白くもあり不気味でもあり神秘的な感じもするという、そういう数字です。数学苦手だから仕組みはわからないけどね。

あの子供が「あーーーーーっ!」って奇声をあげるたびに二人がうううううってなるのは、わかるわかると思いました。旦那が狂ったように穴掘りするのも、それを見ている奥さんが疲弊していくのもね。みんな必死で生きているんだよ。大事なものを犠牲にしながらね。そして「あっそ」で片づけられていくんだ。おもしろかったです。