ソウルメイト 七月と安生 / 友情という名の呪縛

ソウルメイト(2006年 中国、香港)
七月與安生/SOUL MATE
監督:デレク・ツァン

 

あらすじ:親友同士がケンカします。

ネット小説として人気を集めていた「七月(チーユエ)と安生(アンシェン)」は、幼なじみの女性二人の友情を描いたチーユエという作者の自伝的な作品だった。

ある日、アンシェンのもとに映画会社から連絡が入る。チーユエの所在が不明のためアンシェンを探し連絡してきたのだという担当者は小説を映画化したいと申し出るが、アンシェンは作者について何も知らないと答える。

しかし、彼女にとってチーユエは特別な存在だった。かつてかけがえのない親友同士であった彼女たちの間には、ある出来事があった。

台湾の金馬奨で初の主演女優賞W受賞、香港電影金像奨でも12部門にノミネートされ作曲賞を受賞しています。ちなみに同監督の『少年の君』(2019)は未見です。

 

先日チャン・イーモウ監督の『サンザシの樹の下で (2010)』を観てチョウ・ドンユイに魅了されたので鑑賞。相変わらず演技がうまい。ダメ子ちゃんぽく「でへへへへ~」と笑うとこなんか最高に可愛いね。

青春ドラマと銘打ってはありますが、お話が進むにつれ若干のミステリー感が出てきて面白いです。
ある人物の「作り話だったのか?」という短いセリフがそのあとの展開によく効いてきてすごい。思わず「えーーーー!!」って声出ちゃったもんね。あの怒涛のようなどんでん返しが頭から離れなくて、翌日もう一回観ました。
ネット小説『七月と安生』の作者はなぜ今これを書いているのか、何のために書いているのか、誰に向けて何を伝えたいのか、というのが観終わってからじわーっと見えてきましてね、や、これはすごいぞ!と。
デレク・ツァン監督のストーリーテラーとしての手腕に脱帽です。

 

印象的なのは、相手の影を踏めれば一生離れないとか「またね」と言って別れれば必ず再会するとかいうおまじないですね。日本でも影踏み鬼という子供の遊びが昔からあって影を踏まれた子が次の鬼になるんだけども、民俗学的にいえば鬼=幽霊つまり死を表すんですね。そこから「影を踏まれた者は死ぬ(呪いがかかる)」なんて言われるようになった。なので日本人のわたしからするとすごく恐ろしいことをしてるなと思ってしまったわけで… まあ考え過ぎではあるけれど。
一つ間違いないのは、チーユエとアンシェンは互いに影となり日向となりながら二人でひとつとして生きていたのだ、ということです。


大好きな相手がいて、それが異性であれ同性であれ相手の幸せが自分の幸せと思い込むことは非常に危険なことだとわたしは思っているんです。
相手の喜ぶ顔が見たいとか願いを叶えてあげたいとか言うと聞こえはいいんだけども、そこには必ず自己犠牲が伴うわけでね。相手のためにどっかで自分は我慢しないといけない。お互い足りないものや無いものを補い合っている間はいいけれど、自分が引いた瞬間に綻びができ、それがわだかまりとなって積みあがっていくのだろうと。
そして綻びが裂けたとき「自分が与えてやったのに、譲ってやったのに」という負の感情が爆発するわけですね。相手も憎いし自分も憎い、もうどうしたもんかとなるわけです。

まあこんなことを言えるのも歳を取ったからで、わたしも20代で彼女たちのような状況だったら泣いたり叫んだり大喧嘩したりしてるかもしれません。
悟ったようなことを言いながら「あー若いっていいなー」と遠い目をしてしまう昼下がりです。

 

「わたしたちが親友になったのは、選ばれたからだ」

 

鋼鉄の雨 / 真の同志とは何か

鋼鉄の雨(2017 韓国)
강철비/Steel Rain
監督:ヤン・ウソク

 

あらすじ:二人のチョルウが戦争を阻止すべくがんばります。

北朝鮮でクーデターが起こり、北の1号が瀕死の重傷を負った。その場に居合わせた元エリート工作員オム・チョルウ(チョン・ウソン)は、意識不明の北の1号を連れ密かに韓国へ脱出。

北朝鮮の宣戦布告により世界に緊張が走る中、韓国の外交安保首席クァク・チョルウ(クァク・ドウォン)と出会ったオムは、最悪のシナリオを回避するべくともに奔走する。

(※ 劇中、韓国側が北の最高指導者のことを「北の1号」と呼んでいるので同じように書いています)

 

途中でだいぶ前に観た『コンフィデンシャル 共助』を思い出しまして。南と北のバディもので、北の人は何故かイケメンで、めちゃめちゃ警戒する北の人を南の人があの手この手で懐柔していくところなんかもよく似ています。エンタメに振り切ったトンデモ設定やアクションシーンもいい。
しかも本作ではWチョルウですからね。二人の共通点が増えた(笑)

ありそでなさそな、でもひょっとしてあるかも?!というギリギリのところを絶妙なケレン味で攻めてくるのがとても面白いと思います。
あとで調べたら、原作は監督のヤン・ウソク氏自らがウェブトゥーンに掲載した漫画なのだそう。この人漫画家だったのか! 初監督作品はソン・ガンホ主演の『弁護人』です。

 

個人的には、北の人民軍大尉チェ・ミョンロクを演じたチョ・ウジンの無表情なサイボーグ感が非常によろしかったです。グェボボ!ってあれだけ血吐いといて何時間かしたらケロッと出てくるとか不死身かよ!まあ結局やられましたけど。わたし好きだなあ、この人。
キングメーカー』でのヌルッとした演技も面白かったけれど、どちらも気味の悪い執拗さが一周回ってコミカルに見えるという技量の高さを感じましたね。あと、まさかのG-DRAGONね。

 

ちなみに続編といわれる『スティール・レイン (2020)』は潜水艦モノなんですが、全くの別物です。
実は私は何も知らずにこっちを先に観ていまして若干のコレジャナイ感でモヤモヤした記憶があるのですが、たぶん監督が調子に乗りすぎたんだろうと勝手に思っています。この手の映画は現実とフィクションのつなぎ方がおかしいと、役者さんがどんなに頑張ってもただの漫画の域を出ないで終わってしまいますからね…

というわけで『鋼鉄の雨』おすすめです。

 

https://youtu.be/4G8RU1y2Blc

 

猫たちのアパートメント / 猫の気持ちはわからないけれど

猫たちのアパートメント(2022 韓国) 
고양이들의 아파트/Cat's Apartment
監督:チョン・ジェウン

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あらすじ:猫を引っ越しさせます。

老朽化による再開発のため取り壊しの進む、ソウル市内の遁村 (トゥンチョン)団地。かつてアジア最大と言われたこの団地には250匹以上の猫が棲みついていた。

彼らを見守ってきた住人たちは住処を失う猫たちを安全に移住させるべく、里親探しを含めた猫の一斉引越しプロジェクトを始めるのだが…。

 

この映画の猫たちは野良猫ではなく地域猫と呼ばれています。名前とともに紹介される猫たちは痩せ細ってもいないし、どちらかというとてっぷりしていて家猫のように毛並みの綺麗な子もいます。住人の猫ママたちが食事を与え我が子のように可愛がっていたからね。
まあ何しろ猫たちは可愛い。トゥンイ可愛いよ、おでぶのトゥンイ。

 

猫たちは、住人がいなくなろうがデカい重機がそばまで来てようが構わず、ねぐらにしているアパートやその地下に入り込んでしまいます。住民たちに守られ快適に過ごしてきた団地を離れたくないのでしょう。帰巣本能ってやつですね。
でも当然ながらエサにありつける機会は減るし、それどころか解体中に瓦礫の下敷きになったり出られなくなったりして死んでしまう可能性も大いにあります。

もちろん外猫だからもともと危険はたくさんあるのだけれど、人間の都合で住処を奪われ命の危機にさらされる250匹の猫たち・・・となると「どげんかせんといかん」となったのは当然の流れなのだろうと思いますね。
いま目の前にある危機に対して、できる人ができることをやる。助ける方法があるなら、それで助ける。

 

物語は現在進行形だったのでこの活動の結果が実際どうだったのかはわからないし、猫たちが移住先に馴染んでいるのかも気になるところではありますが、私を含め猫を飼ったことのある人や猫好きの人には猫たちの一挙手一投足に「わかるわかる~」とほっこりしながら観れるのではないかなと思います。

猫たちは私たちのことを猫缶の缶切りくらいにしか見ていないのよハハハ!と笑っていた猫ママがいたのだけれど、まあそんなもんかもしれないね。
某レビューサイトに「私一生缶切りでいいです!」という猫飼いさんのひと言があって最高だなと思いました。

 

『猫たちのアパートメント』予告編 - YouTube